男性の過食症 ひたむきな親の気持ちが子どもを治す

先日、過食症の息子さんの相談で(最近は男性の過食も多いのです)、中国地方から来所されているお母さんの面接をしていました。

治療は最初が一番大事な時期で、軌道に乗るのが先か、こじれるのが先か、時間との競争です。最初からしっかり頑張ってくださる人達は、軌道に乗りやすく、成功しやすい。一方、最初もたもたする人達は、何ヶ月も成果が上がらないうちに、だんだん、こじれる力が強くなる場合もあります。だから、最初は、我々もとても不安なのです。

この家族の場合は、ようやく軌道に乗り始め、ホッとしているところでした。その時にお母さんがおっしゃった言葉が、新鮮に、私の心に響きました。

「先生、何としてでも、この子を治してやりたいんです」

何十年間のカウンセリング歴の中で、何回、この言葉を聞いた事でしょう。特に、昔はよく聞きました。久々に聞いた、親のひたむきな言葉でした。

「そうそう。その気持ちさえ持ち続けていただければ、たいていの事は解決しますよ」と、今、母親の言葉を思い出しながら、つぶやいている私がいます。

淀屋橋心理療法センター

福田 俊一(所長、精神科医)

淀屋橋心理療法センター メインHP 精神科医日記より

子どもの自傷行為(リストカット):家族療法のカウンセリング治療

まじめで頑張りやさん、甘えやホッとするもの探しでリカバリー

明るく話していた有香が、手首を切った(高一)

「あのね、きょう先生にほめられたんよ。みんなの前で」と、有香はうれしそうに夕食のあと母親に話した。「数学の試験な、一番やってんて」「え、ほんま、よかったやん」「私、がんばるで。今度の試験も」「そうか、えらいな、有香は。がんばりや」。こんな会話を親子で楽しくかわして、有香は自分の部屋へ入っていった。母親はうれしかった。高校に入ってから急に勉強しだした。「○○大学へいくんや」と、将来の希望も話していた。ところがその夜、たいへんな事がおこった。有香が手首を切ったのだ。

母親は有香につきそいながら「なぜこんなことするのか、わかりません」と、おろおろ。あんなにうれしそうに話してたのに、明るくがんばるって言ってたのに。診察を受けた医院で有香は平然として答えた。「なんか切りたくなっただけや。血みたら、スーッとしたわ」。初めてのことで、傷はさほど深くはなかったが、幾筋ものためらい傷が痛々しい。深い心の悩みを感じてというのでもないのか。しらけた気持ちと表情はとりつく島がなかった。

母親の「がんばりや」の一言が引き金に?

診察を受けた医院の紹介で有香はカウンセリングをうけることになった。リストカット(自傷行為)で大事なことは「くり返さないこと」。一度やると二度、三度と切る傾向がある。初めのうちはおそるおそるだが、だんだん大胆になり傷が深くなるので要注意。

有香を引き受けたカウンセラーは、明るい心の裏にある鉛の固まりは何かをさぐっていた。有香は頑張りやさん。勉強も部活も手を抜くということを知らない。できない自分は許せない。こんな気持ちで突っ走ってきた。志望校に合格してから、特にこの思いが強くなっていた。カウンセリングがすすむにつれ、有香の口からぐちとも不満とも取れる発言がこぼれだした。

「お母さんのうれしそうな顔を見たかったんや。良い子にしてへんと、捨てられるって。小さいときから、そんな思いがしみついてた」と。「私、お母さんきらいちがうで。好きや。そやから喜ばせたかったんや。ええ高校に入ったんもそうやし、勉強がんばったんもそうや。けど、お母さんいっつも私にゆう言葉決まってんねん。『がんばりや』や。これ以上がんばれと言うのか、あの夜そない思い出したら頭ボーッとして、なんかわからんようになって」。ようやく有香の心の裏にある鉛の固まりが、溶けだしたようだ。

頑張りやさんに必要なホッとできる息抜き法

「肩の力をぬけるかな。今まではがんばる有香さんだけでしたが、これからはリラックスもできる有香さんも加えていきましょう」と、カウンセラーは有香に語りかける。

今までの有香の生き方が行き詰まってきている。「がんばるか、手首を切るか」という、極端な二者択一の生き方しか知らない。「がんばるのはいいが、無理なく自分の本質を生かしながら元気がでる道を見つけられるか。ホットできる息抜き法がみつかるか」と、この二つが立ち直りの決め手になるだろう。

ホッとできるものさがし」やってみよう

肩の力を抜くといっても、今までずーとがんばるだけのやり方できた子にとって、そう簡単なことではない。英語の勉強をするとか部活でテニスをするとか、がんばってやることは得意だが、エネルギーをつかわずにできることは難しい。「何もしないで、空をボーっと見上げてるって、こんなことでもいいんですが」と、カウンセラーは「ホッとできるものさがし」のこつを話した。

カウンセラーは面接の度ごとに「ホッとできるものは、見つかりましたか」を、くり返して聞いた。「いいえ、まだ」と、答える有香に新たな課題が。「じゃこんどはお母さんと一緒に話しあいながら見つけてきて下さい」。母親との会話を促進して、お互いの親密感を高めようというのがねらいだ。

「ホッとできるもの」は、猫の背中なでること

半月たっての面接は、母親だけの参加であった。有香は面接のあと、母親と話し合いながら自分なりのリラックス法をみつけようとした。「エネルギーを使わないで、なんか気持ちが和らぐもの」・・・・・「お母さん、私にはそんなものないわ」と、有香はいらいら。そこへかわいがっている猫のミーコがやってきた。背中をなでてやると、ゴロゴロのどをならしてからだをすり寄せてくる。「よしよし、ミーコだけやな、私の気持ちわかってくれるの」。有香はなでてやりながら、話しかけていた。そんな様子をみていた母親は「有香ちゃん、ひょっとして、あんたのホッとできるものって、ミーコの背中なでてやることちがう?」。

答えが見つかった。「そうか、これが私のホッとできるものなんか。たしかにそうやな。背中なでてたら、いつのまにか気持ち落ち着いてる」。有香は納得できる発見をしてから、イライラしたり勉強をしたあとは、意識してミーコの背中をなでるようにした。

この発見が有香にゆっくりとした生活のリズムを教えたようだ。有香のリストカット(自傷行為)は、不思議にもその後なりを潜めている。母親の言葉によると、「たまにはリスカしたら、スッキリするやろか」とつぶやくが、実行するつもりはないと話しているらしい。

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☎ 06-6866-1510

子育て(育児)と過食症・過食嘔吐 「娘が3才になるまでに治したい」

「娘が3才になるまでに治したいんです!」

結婚して5年になる美香さん(仮名)が摂食障害(過食症)のカウンセリング治療に来所しました。そのときの動機付けが「娘が3才になるまでに、私の過食症を治したいんです。私のマネをして娘も過食しだしたらえらいことだと思って」。

美香さんは娘が生まれてから過食がしにくくなっていました。2才をすぎた頃やってきたおばあちゃんに「ばーば、ママね、おやついっぱい、キッチンで、ミキもほしいな」と言われて、ハッとしました。「もうわかる年齢になってるんだ。あの子がいる前では過食しないほうがいいな」と心に言い聞かせました。

ある日娘はお昼寝をしてると思ってキッチンでこっそりと過食していたら、ドアのかげからジーと見つめている娘に気がついたのです。そのときは心底ドキッとしたそうです。子どもはまだ2才半だから、過食とかはなにもわからないでしょう。「ママなんかおいしそうにたべてるなー」くらいでしょうが。

「食べ物の恨みはこわい」と言います。やはり記憶に残るようなことがあってはいけないと、美香さんはカウンセリング治療を受けて本気で過食症を治す決心をしたということです。

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福田俊一  精神科医 所長 (摂食障害専門外来 40年の治療歴)

増井昌美  過食症専門セラピスト(摂食障害専門外来 30年の治療歴)

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