子どもの自傷行為(リストカット):家族療法のカウンセリング治療

まじめで頑張りやさん、甘えやホッとするもの探しでリカバリー

明るく話していた有香が、手首を切った(高一)

「あのね、きょう先生にほめられたんよ。みんなの前で」と、有香はうれしそうに夕食のあと母親に話した。「数学の試験な、一番やってんて」「え、ほんま、よかったやん」「私、がんばるで。今度の試験も」「そうか、えらいな、有香は。がんばりや」。こんな会話を親子で楽しくかわして、有香は自分の部屋へ入っていった。母親はうれしかった。高校に入ってから急に勉強しだした。「○○大学へいくんや」と、将来の希望も話していた。ところがその夜、たいへんな事がおこった。有香が手首を切ったのだ。

母親は有香につきそいながら「なぜこんなことするのか、わかりません」と、おろおろ。あんなにうれしそうに話してたのに、明るくがんばるって言ってたのに。診察を受けた医院で有香は平然として答えた。「なんか切りたくなっただけや。血みたら、スーッとしたわ」。初めてのことで、傷はさほど深くはなかったが、幾筋ものためらい傷が痛々しい。深い心の悩みを感じてというのでもないのか。しらけた気持ちと表情はとりつく島がなかった。

母親の「がんばりや」の一言が引き金に?

診察を受けた医院の紹介で有香はカウンセリングをうけることになった。リストカット(自傷行為)で大事なことは「くり返さないこと」。一度やると二度、三度と切る傾向がある。初めのうちはおそるおそるだが、だんだん大胆になり傷が深くなるので要注意。

有香を引き受けたカウンセラーは、明るい心の裏にある鉛の固まりは何かをさぐっていた。有香は頑張りやさん。勉強も部活も手を抜くということを知らない。できない自分は許せない。こんな気持ちで突っ走ってきた。志望校に合格してから、特にこの思いが強くなっていた。カウンセリングがすすむにつれ、有香の口からぐちとも不満とも取れる発言がこぼれだした。

「お母さんのうれしそうな顔を見たかったんや。良い子にしてへんと、捨てられるって。小さいときから、そんな思いがしみついてた」と。「私、お母さんきらいちがうで。好きや。そやから喜ばせたかったんや。ええ高校に入ったんもそうやし、勉強がんばったんもそうや。けど、お母さんいっつも私にゆう言葉決まってんねん。『がんばりや』や。これ以上がんばれと言うのか、あの夜そない思い出したら頭ボーッとして、なんかわからんようになって」。ようやく有香の心の裏にある鉛の固まりが、溶けだしたようだ。

頑張りやさんに必要なホッとできる息抜き法

「肩の力をぬけるかな。今まではがんばる有香さんだけでしたが、これからはリラックスもできる有香さんも加えていきましょう」と、カウンセラーは有香に語りかける。

今までの有香の生き方が行き詰まってきている。「がんばるか、手首を切るか」という、極端な二者択一の生き方しか知らない。「がんばるのはいいが、無理なく自分の本質を生かしながら元気がでる道を見つけられるか。ホットできる息抜き法がみつかるか」と、この二つが立ち直りの決め手になるだろう。

ホッとできるものさがし」やってみよう

肩の力を抜くといっても、今までずーとがんばるだけのやり方できた子にとって、そう簡単なことではない。英語の勉強をするとか部活でテニスをするとか、がんばってやることは得意だが、エネルギーをつかわずにできることは難しい。「何もしないで、空をボーっと見上げてるって、こんなことでもいいんですが」と、カウンセラーは「ホッとできるものさがし」のこつを話した。

カウンセラーは面接の度ごとに「ホッとできるものは、見つかりましたか」を、くり返して聞いた。「いいえ、まだ」と、答える有香に新たな課題が。「じゃこんどはお母さんと一緒に話しあいながら見つけてきて下さい」。母親との会話を促進して、お互いの親密感を高めようというのがねらいだ。

「ホッとできるもの」は、猫の背中なでること

半月たっての面接は、母親だけの参加であった。有香は面接のあと、母親と話し合いながら自分なりのリラックス法をみつけようとした。「エネルギーを使わないで、なんか気持ちが和らぐもの」・・・・・「お母さん、私にはそんなものないわ」と、有香はいらいら。そこへかわいがっている猫のミーコがやってきた。背中をなでてやると、ゴロゴロのどをならしてからだをすり寄せてくる。「よしよし、ミーコだけやな、私の気持ちわかってくれるの」。有香はなでてやりながら、話しかけていた。そんな様子をみていた母親は「有香ちゃん、ひょっとして、あんたのホッとできるものって、ミーコの背中なでてやることちがう?」。

答えが見つかった。「そうか、これが私のホッとできるものなんか。たしかにそうやな。背中なでてたら、いつのまにか気持ち落ち着いてる」。有香は納得できる発見をしてから、イライラしたり勉強をしたあとは、意識してミーコの背中をなでるようにした。

この発見が有香にゆっくりとした生活のリズムを教えたようだ。有香のリストカット(自傷行為)は、不思議にもその後なりを潜めている。母親の言葉によると、「たまにはリスカしたら、スッキリするやろか」とつぶやくが、実行するつもりはないと話しているらしい。

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うまくいかない就職活動と自傷行為(リストカット)

リストカットをする人はとても繊細な人が多いですね。ちょっとした言葉に傷ついたり、「自分はダメだ」と思いこんだりしてしまいます。ふだんから何事にも一生懸命と取り組んでいるので、少しでも「ダメサイン」が出ると、自分を許せなくなるようです。

ここで紹介する美香は大学3年生。リストカットのカウンセリングに三ヶ月前から通っていました。就職活動もはじまりそろそろ友だちのなかには内定をもらった人も出てきている頃です。「私だけまだ決まっていない。どうして?!」というあせりから、夜にリストカットをしてしまいました。

<次にあげる会話はカウンセリングにやってきた美香と母親、そしてカウンセラーの会話です>(文中カウ=カウンセラー)

カウ:(手に包帯を捲いている美香を見て)またリストカットをしたんだって? あー、だいぶ切ったみたいだね。

美香:はい、えっと、きのうの夜、またちょっと手首切ったんです。

母親:それだけとちがって、頭、壁にぶっつけたりしまして。先生、三ヶ月まえからカウンセリングをしていただいて、だいぶ落ち着いてきたと安心してたんですが。

カウ:えー、切るだけと違って、頭ぶつけたりしたんですか。うん。それは、どんな気持ちの中で手首切ったか、覚えてるかな?

美香:えっとー。就職がまだ決まらなくて・・・

カウ:あせってイライラっとしてたんかな?

美香:イライラっていうよりも・・もう絶望的っていうか、投げやりっていうか。

カウ:うん。うん。なるほどな。うん、そうか。で、その友だちって内定が決まったの?

美香:はい、愛ね、英語が生かせる職場だって喜んでるの。それでうれしそうにペラペラしゃべってて。「へー、よかったね。おめでとう」って言ってたんですけど、なんかだんだん気分わるくなってきて。

カウ:あ、そうか。ちょっと自分と比べてしまったんかな。

美香:自分にすごい苛々して。私は怠け者、なにしてるんや!リストカットで痛い目にあって罰を受けろ!こんな気持ちに追い立てられたみたいになって。

カウ:それで大分やばかった?ドバッと切って血が出ましたか?

母親:今回は5針縫いました。まえは10針でしたけど。

カウ:そうですか。痛かったでしょう。自分に罰ですか。罰を与えないといけないってことないでしょう。いつも一生懸命、取り組む人なのに。

美香:いいえ、ちがいます。私が怠けてるから、ダメなんです。血を見てホッとしました。「あー、これで私は許されるんだわ」って思いました。

 

美香さんと友だちの愛さんは二人ともESSサークルで、英会話を楽しみながらブラッシュアップしていました。頑張りやの美香は誰にも負けないくらい上達して。「私のほうが愛ちゃんより上手に話せるわ」と、仲良しの愛には負けないぞという気持ちが強かったようです。その愛ちゃんが先に決まってしかも英語を生かせる職場ということで、美香はショックを受けたようです。

一つの理由として言えることは、リストカットから治る道筋を歩みはじめたころは、感情の波が激しく非常に不安定になりがちです。今日いいことがあってうきうき気分でも、次の日ちょっとでもひっかかることがあると、ガクッと落ち込んでしまいます。まわりの人間はびっくり仰天で振り回されますが、本人はそこまでの自覚はなくその場その場の気分に左右され、通常では考えられない「手首を切る」という衝動的な行為にでてしまうようです。

家族の人は、本人が明るく話すからとかリストカットしなくなったからといって、安心しないよう気をつけて見ておくことが大切です。

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リストカット克服の本の紹介 過食症からリストカットになったケースも。

リストカットの本の紹介 過食症からリストカットになったケースも。

  • 克服できるリストカット症候群
  • 著者:福田俊一 増井昌美
  • 出版社:星和書店
  • 1,890円(税込)
  • 2011年6月26日

amazon.co.jpからも購入できます。

内容の紹介

「リストカットの謎に迫り、克服への道をともに歩む」   「頑張りすぎ」が止められない、  「相手にあわせすぎ」から抜けられない――

リストカットの背景にある「それぞれの生きづらさ」を、ベテランカウンセラーが丁寧に解きほぐし解決に導くプロセスが書かれています。

なぜリストカットをしてしまうのだろうか。自らを傷つけるというその異様なエネルギーは、いったいどこから湧いてくるのだろうか。そこに見え隠れするのは、頑張りすぎて疲れ切っているのに、また頑張ってしまうという生きづらさであり、それでも必死で生きている彼女たちの姿だ。家族療法の専門家がリストカットの謎に迫り、本人と家族の苦悩を丁寧にほぐし解決へと導く、4つのストーリー。

主な目次

第1章 カウンセリングの現場から見えてきたリストカットの真相

謎と思われたリストカットの世界から、カウンセリング治療を通して真の姿がみえてきた。やがては対応できるケースが増え、カウンセリングの幅が広がった。

第2章 ケースにみるリストカット

  • ケース1:不登校からリストカットへ…くり返される自傷行為  真希(17才 高2)「登校しなければ」というあせりからリストカット
  • ケース2:摂食障害(過食症)からリストカット…職場と父親のダブルストレス      有子(24才 OL)職場ストレスと父親への不満からリストカットを
  • ケース3:激しいリストカットから克服への道  篤子(20才 大学3)ボーイフレンドにふりまわされ、パニック状態でリストカットを
  • ケース4:留学先でリストカットが見つかって  由佳(16才 高2)春の体育祭で活躍した後留学し、現地でリストカットを発症

第3章 リストカット…母親の不安や疑問に答えて

Q1:血のついたタオルやティッシュが娘の部屋に… Q2:リストカットの傷を見つけたとき、どうすれば… Q3:リストカットの傷の手当はどうしたらいいかしら… Q4:子どもが持っているカミソリやナイフは、取りあげていい… Q5:リストカットをしそうな時、親としては外出を控えたほうが… Q6:子どもをカウンセリングに参加させたほうがいいですか… Q7:「リストカットしてやる。死んだら親のせいだ!」… Q8:子どもが「不安で不安でしょうがない」と… Q9:「私は生きてる値打ちがない」「人生の目的なにもない」…

リストカット克服 過食症からリストカットのケースも。

(2)出版を終えて…著者の言葉

■福田俊一 所長・精神科医

私は病院で医師としてリストカットに携わっていたころと、その後のカウンセリングでの治療を含めて約30年がたちました。リストカットはその症状のありようが激しいだけに、現場に携わる人たち――外科医、心療内科医、精神科医、看護師、家族、本人、学校の先生、養護教諭などに、強く『何とかしなければ』というメッセージを投げかけ続きます。誰もが無関心でおれない症状です。私もその一人です。

いろんな解決法がだされてきましたが、リストカットの原因についてはまわりの人たちや本人も納得できるような希望のある説明解釈というのは与えられていませんでした。

本書をお読みいただければリストカットという一見驚かされる現象をみても、建設的に解決できる症状であると理解していただけるのではと期待しています。

■増井昌美 家族問題研究室長・ファミリーセラピスト

年を追って増えていくリストカットのクライアントさんたちを気にしながら、執筆をすすめてきました。そしてやっと本書を手にして、正直ホッとしてます。

本書を読んでいただければ「リストカットは謎めいた行為でもなく、自暴自棄からくる衝動的な行為でもない。もっと本人の現実に根ざした行動であり、解決十分な症状である」ということが理解してもらえるものと思います。その手がかりとしての本書ができあがったという安堵感を感じています。一人でも多くの方たちに読んでいただき、リストカットの真相をわかってもらえたらと思います。

この本はamazon.co.jpからも購入できます。

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☎ 06-6866-1510

福田俊一  精神科医 所長 (摂食障害専門外来 40年の治療歴)

増井昌美  過食症専門セラピスト(摂食障害専門外来 30年の治療歴)

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